Our Topics進化したテクノロジーで聴覚・臭覚に訴える展開

布のスピーカーでCMソングを訴求

2月8日、西武鉄道池袋駅で、通常ではありえない場所からCМソングが流れた。天井から吊り下げられる大型の広告媒体「V字バナー」からである。一見、どこにもスピーカーらしきものは見当たらない。これはヤマハが開発した「TLFスピーカー」で、薄くて軽くて曲げられるという特性を備え、バナー全体をスピーカーにして音を出すことを可能にしたものだ。広告としての利用は初めてで、テレビ番組にも取り上げられ話題となった。
JR新宿駅北通路では、そのスピーカーを大型ポスターに搭載した。通行人に対して一定時間、「面で聴かせる」イメージだ。注意を喚起することになり、誰が歌っているかも分かり、ポスターとの結びつきを強くする効果があったと思う。直進性が非常に良いため、反対側の通路(ロッカーの向こう側)にも聴こえて、わざわざ音の出る場所を探しに来る人の姿も見受けられた。
この場所では、以前もパナソニックが天井の梁に指向性スピーカーを複数台設置して広告を展開したことがある。上からの音なので、雑踏の中でも比較的広範囲にクリアに聞こえた。ホームへつながる階段壁面では、通行者がポスターの前を通るとセンサーが働き、音が流れる仕組みとなる装置を設置した。
この2種類の音源の効果で、周辺一帯が「スゴイー!・ナノイー」のジングルで包まれた。たとえポスター自体が見られなくても、求められる広告の効果を出していたと言えるだろう。

香り発生装置を設置 希望者にはサンプルも

西口改札を出たところでは、小田急デジタルピラー(デジタルサイネージ)が46面あり、それらも音を出すことが可能だ。音響装置には、「セラミックボードスピーカー」という、開口部がなくても筐体から音が出せる特殊なものが使われている。
この場所を使って、ジルスチュアートは音と映像だけでなく、おしゃれなオードトワレのボトルの実物を展示。さらに特殊な香りを発生させる装置を展示ブースに設置し、指定されたボタンを押すと、商品の香りが漂うしかけをつくった。希望者には、香りの付いた紙のサンプルも渡した。
駅などの公共空間では「異臭騒ぎ」となる恐れもあり、臭覚に訴える広告には媒体社も抵抗感がある。今回は、拡散しにくく残臭性が少ない気体を発生させる特殊装置を使い、しかも希望者だけを対象にして実施した。この効果だけではないだろうが、関係者によると、小田急百貨店の化粧品売り場への集客が増えたという。
いまだに解決すべき課題はあるが、このように視覚以外の感覚に訴えるOOH展開の中には、効果が見込めるものもあり、さらなる活用法を考えるべきではないだろうか。最新のテクノロジーが、それを後押ししている。

※このコラムは「宣伝会議」2011年3月号からの転載です。