Our Topics映画やアニメの登場人物に変身させるサイネージプロモーション

自分が映画のヒーローに変身

10月5日から1週間、20世紀フォックスは、映画『ファンタスティック・フォー』のプロモーションをOOHメディアで展開した。メトロ新宿駅の大型ボードのスペースには、等身大の縦型サイネージが4面並べて設置され、画面には映画の主人公である4人のキャストが1面ごとに映っている。サイネージの前に立つと、カメラで顔がスキャニングされ、4人のうち3人のキャストの顔に合成され表示された。最後にその写真を撮ってシェアしよう!と、SNSへの拡散を促すものだった。1人でやってみると、3人すべてが自分の顔になった(写真1)。自分の顔は実に鮮明でリアルだ。タイトな戦闘スーツを着た姿を見ると、映画の登場人物のように特殊能力を得て活躍できそうな気分になる。ただ、髪の毛が丸刈りの人や女性に合成された姿を見ると、普段と違う自分に違和感を覚え思わず笑ってしまった。

ツッコマレビリティのある展開

現場では大きな歓声を上げ、合成された映像を見て、手を叩いて笑っていた若い女性のグループがいた。サイネージ画面にはお世辞にも美しいと言えない変顔があった。眼が異常に大きかったり、爬虫類顔だったり、横を向いていたりだ。スキャニングに失敗したからだと思うが、これが友人からツッコミを入れられ大受けだった。SNSに載せれば、自虐ネタとして笑いを誘ったに違いない。また、笑いが絶えない親子連れも多かった。じっとしていられない子どもたちは、総じて変顔だ。口を開けたままの顔になった女の子は、映画のヒーローとは対極のなんとも情けない顔であったが、画面が終了するまで本人はケタケタと笑い続けていた。ヒーローに変身するつもりが、自分が変顔キャラなった体験価値は、別の意味で印象的だった(写真2)。広告主にとっては想定外だったに違いない。まさか狙ってつくったわけではないだろうが、参加者の笑いで包まれるイベント展開は成功と捉えても良いのではないだろうか。

アニメ顔の自分がしゃべった!

自分が物語の登場人物に変身する試みは9月21日からも行われている。テレビアニメ『コメット・ルシファー』でのプロモーションだ。こちらもサイネージの前に立つと自分の顔がスキャンされ、アニメキャラクターのものと入れ替わるというものだった(写真3)。『ファンタスティック・フォー』と違うのが、実写ではなくアニメ顔であり、静止画ではなく動画である点である。顔も立体的で自分の特徴をうまく捉え似ている。第一話のワンシーンの映像に出演した自分は、驚くことに口が動き台詞をしゃべったのである。ここまで進歩しているテクノロジーに感心するものの、実際のキャラクターデザインと比べるとコミカルな感じがして、やはり笑ってしまった。このように、サイネージを使ったインタラクティブな体験型イベントで、自分が物語の登場人物に変身する試みは通行者の関心を集めやすい。キネクトなどの進化で、よりリアルな表現もできるようになったが、あえてツッコミを入れられるような隙の要素(ツッコマレビリティ)を盛り込むことも話題となるには必要に違いない。リアリティを追求した関係者にはお詫びをしたいが、一体験者としての考えである。参考にしてみてはいかがだろうか。

※このコラムは「宣伝会議」2015年12月号からの転載です。