Our Topics旅先でみるOOH ―空港は新たな媒体になりうるか―
夏休みを間近に控え、本格的な行楽シーズンが到来した。100年に1度の不況と言われている今年だが、高速道路のETC搭載車割引や円高・燃料サーチャージの値下げ等によって連休の総旅行人数はほぼ前年並み、海外長距離旅行者にいたっては前年を上回る数を記録したようだ。
そんな旅路の途中、時間を持て余しがちなのが長距離移動をする際の空港。実はその空港というスペースは、昨今、広告展開のチャンスが潜む場として注目されている。東京・羽田空港では、昨年12月より女子トイレの個室に7インチの液晶ディスプレイを設置し、15秒の広告映像を配信する取り組みを開始した。これまでも駅や商業施設などでトイレを使った広告展開は行われてきた。洗面台に商品サンプルを置いて使用してもらったり、鏡面にステッカーを貼ったりなどの展開であったが、個室にデジタルサイネージを取り付ける仕組みは国内初という。清潔で極めてプライベートな空間でのコマーシャル放映は、リラックス状態の乗客の高い注目を集めることであろう。デジタルサイネージという旬なメディアの可能性にも期待したい。
変わって、比較的長い待ち時間を強いられる国際線のターミナル。フランス・パリのシャルルドゴール国際空港には煌びやかなブランドショップが並び、出発前の女性旅行客は免税品のショッピングに一際忙しく駆け回っている。そんな様子を横目に、男性やこどもたちの注目を集めていたのはソニー・コンピューターエンターテイメントの人気ゲーム機、プレイステーション3の試遊機だ。通常は電器量販店や各イベントでの設置が多く見られるが、空港などの公共スペースに恒常的に設置されているのは珍しい。出発までの長い時間を消化するには、ゲーム好きにとっても最適なサービスとも言えるだろう。世界のゲーム市場は2兆円を超えると言われているが、人気ソフトが次々と販売される同業界でも、他の市場と同様に「本当に面白いもの」を見極めるためユーザーの目が厳しくなっている。企業は少しでも商品の良さを知ってもらおうとトライアルにかける予算を惜しまない。旅行客が自ら集まってくる空港は、理想の展開スペースと言えるかもしれない。
フライトを終えたあとのもう一仕事といえば、手荷物の受け取り。ベルトコンベアから流れてくるたくさんの荷物の中から自分の荷物を見つけ出すのは、時に忍耐の要る作業でもある。そんな利用客に向けて、社団法人ツーリズムおおいたは手荷物受取ベルトコンベアを回転寿司のベルトコンベアに見立て、何と発泡ウレタン樹脂製の巨大寿司を流している。幅70センチ・高さ30センチ・重さ25キログラムという「佐伯氏蒲江のうに」と「姫島の車えび」2貫は、それぞれ大分県の名産品。「海鮮王国おおいた」をPRするとともに、大分旅行の楽しい思い出のひとつにしてもらおうと空港スタッフ協働のもとに実施されているのだ。遭遇した利用客は写真を撮影したり、動画を撮影して共有サイトにアップロードしたりと話題を呼んでいる。ご当地ブームでPRに力を注ぐ地方が増える中、ともすれば不満が募りがちなスペースでの展開で、微笑ましい施策が今後も旅行客の脳裏に大分の明るく楽しいイメージを強く焼きつけることだろう。
※このコラムは「宣伝会議」2009年6月号からの転載です。