Our Topics新宿駅が映画「天気の子」の聖地に。駅媒体の可能性を広げた特別装飾

JR新宿駅南口が「天気の子口」にデジタルサイネージで協賛企業がPR

2019年7月19日、映画「天気の子」が封切られた。この映画は、多くの企業が協賛し、タイアップCMやプロダクトプレイスメントも話題になっている。そんな中、JR東日本は同日から9月1日までの間、映画に登場する新宿駅を「FUN!TOKYO!天気の子STATION」として特別装飾を行った。駅の南口改札天井には空と雲が描かれ、柱にはヒロインの天野陽菜が空を飛んでいる姿がラッピングされるなど、空間全体で映画の象徴的シーンを表していた。
さらに驚いたことに、南口が期間限定で「天気の子口」となっていた。駅名表示に副駅名称として企業名などを併記したことはこれまでもOOH広告としてあったが、改札口というのは異例だろう。改札口は外から駅構内へ入る、あるいは出る門のようなものだ。映画の中では、鳥居が天の世界と地上の世界(現実世界)を行き来するための「門」として描かれていたので、その共通点を意識したものかもしれない。
また、改札内にある12本の柱に新設された48面のデジタルサイネージに、映画の予報(予告編を天気にかけて表現)とJR東日本のキャンペーン告知のほか、サントリー食品、ソフトバンク、バイトル、ミサワホーム、KADOKAWA、東京都交通局のタイアップCMが1週間、放映されていた。同時に、その日の天気情報に合わせた「晴れ・曇り・雨」をイメージする静止画(広告主名入り)をCMに組み合わせて表示させるダイナミックなDOOH広告も実施。近くのNewDays店舗も雲と空のラッピングが施され、サイネージから映画の予報が放映されていた。どの動画にもアニメのシーンが入っているので、駅構内を歩く通行人が途中から見ても映画の世界観を感じることができる。

天井には映画に登場する傘、ヒロインと一緒に撮影できる仕掛けも

圧巻だったのは、駅構内の天井部分から映画に出てくる「てるてる坊主がついたビニール傘」を吊り下げていたことだ。フラッグ広告の特殊展開だが、インパクトがあり一瞬で雨を連想させられた。映画の世界観を最もリアルに感じられる、非常に優れた表現だ。JR東日本が行ったキャンペーンのInstagramには、「新宿駅がカラフルに」「傘いっぱいで可愛かった」「朝から電車の運転見合わせとかで疲れたけど、これ見たら一気に心が晴れた。粋なことしてくれるなぁ?」などの好意的なコメントと共に傘の写真の投稿があった。特に映画を観て訪れたコアなファンほど心に刺さったようだ。映画の聖地巡礼者にはその場所に紐付くOOHメディアでの訴求が有効だ。
時折、映画の主題歌「愛にできることはまだあるかい」のサビの部分と共に、主人公・森嶋帆高の声を担当した醍醐虎汰朗さんのキャンペーンメッセージが構内アナウンスに流れるなど、音の効果も感じられた。新南改札外のフロアと壁面には、雲の上に立つと天野陽菜と一緒に空を飛んでいる写真を撮ることができる3Dトリックアートのフォトスポットも設置してあった。
このように、JR新宿駅での「天気の子」特別装飾は改札口ラッピングや傘のフラッグ広告、構内アナウンスなど、従来の駅広告の枠を超え、その可能性を大きく広げる試みだったといえよう。情報拡散の仕掛け方もうまく、ファンの心を捉えていた。参考にしてみてはいかがだろうか。

※このコラムは「宣伝会議」2019年10月号からの転載です。