Our Topics優れたグラフィックデザインによる駅ばりポスターでのブランディング
「世界遺産狙ってます。」
としまえんは、7月から今年のプールの駅ばりポスター展開を開始した。キャッチコピーは驚くことに「世界遺産狙ってます。」だ。「強気すぎだろ、としまえん」などTwitterでツッコミを入れられるように大胆な宣言だ。実際、としまえんのプールは、流れるプールとして50年前に世界で初めてつくられたものだ。そういう意味では世界最古の施設と言える。その着眼点は話題としてタイムリーでもあり優れていると思う。本気度合いはともかく、誇張気味に受け取れるところが漫才のネタのようで笑える。ポスターをじっくり見ると、全体にいぶし銀のような輝きがある。これは、「アルグラス」という特殊なメタリックペーパーを使ったからだ。製造が終了したものをわざわざ流通在庫を探すなど、クリエイターのこだわりを感じる。それによって荘厳なビジュアルがより引き立てられている。もっとも、高価で在庫も少ないので全部には使っていないそうだ。としまえんの駅ばりポスターは、大貫卓也さんら日本を代表するクリエイターも手がけたことがある。大貫さんの作品は1986年の「プール冷えてます」という広告だった。従来とは全く異なるアプローチに、大学生だった佐藤可士和さんがものすごくびっくりしたというエピソードもある。ユニークなポスター表現はここから始まったようにも思う。2008年には俳優の温水洋一さんを使った「冷やし温水」という表現もあった。浮き輪を付けプールに浮かぶ温水さんが、なんともユーモラスで印象的だったものだ。この採用がきっかけか、その後やくみつるさんを使った「プールで、やく」、「TSM48」(トシマ・フォーティエイト)、ミゲルくんの「ミゲル、泳ゲル」、田原俊彦さんの「としプー!」、テリー伊藤さんの「テリ焼き」と、震災の年を除いてタレント+だじゃれパターンが定番になった。毎年見るものを笑わせてくれる広告から、「としまえん=楽しい」というイメージが浮かんでくる。
駅ばりポスターの金字塔
「世界遺産狙ってます。」を手がけたクリエイターであるオリコム 渡辺健太郎氏によると、特殊な質感の紙を使う際、参考として思い出したのが三和酒類の「いいちこ」のポスターだったそうだ。美しい世界中の自然の風景写真(室内もある)の中に、「いいちこ」のボトルが控えめに置かれ、共感を呼ぶ簡潔なコピーとロゴが添えられているもので、駅ばりポスターの金字塔と言っていい優れた広告だ。ホームページを見ると、過去のポスターが掲載されてあった。驚くことに、1984年から毎月30年以上続いており、400点近くもある。その世界観や構成は一貫して変わっていない。アートディレクターは河北秀也さん、カメラマンは浅井慎平さん、コピーライターは野口武さん、デザイナーは土田康之さんと制作メンバーも長年にわたり変わっていないようだ。「通勤中にほっとする」「私は、いいちこのポスターが大好きで、いつも駅で眺めています!」「 “何でもない日にあの人といる”というフレーズがとても素敵で、思わず足を止めて駅のポスターに見入ってしまいました。」「いつまでも一ファンでいたいと思います。頑張って下さいね!」など、ネット上でも好意的な声が見られる。このように方向性は違うが、アナログな駅ばりポスターでも、優れたグラフィックデザインで長期間継続的に訴求することが、ブランディングに有効だと言えるだろう。どんな世界観を長期的につくるかという難しさもあると思うが、参考にしてみてはいかがだろか。
※このコラムは「宣伝会議」2015年10月号からの転載です。