Our Topicsデジタルサイネージの媒体価値を上げる3Dクリエイティブの力
巨大3D猫によりデジタルサイネージがランドマークになった
2021年7月に公開された「クロス新宿ビジョン」の「新宿東口の巨大3D猫」は、その後SNSでの動画再生回数が580万回を超えたり、多くのウェブニュースやテレビ番組でも紹介されるなど大きな話題となった。本誌でも8月号で紹介しているが、10月からは新作「無重力編」も公開されるなど、4か月以上経ってもわざわざ見に来る人、新宿東口広場付近からスマートフォン(以下、スマホ)やカメラを向ける人は多い。3Dクリエイティブの力がデジタルサイネージ、あるいはビル自体をランドマーク化させ、媒体価値を上げたと言えるだろう。
驚くことに、巨大3D猫がきっかけとなり、その後も続々とこのデジタルサイネージに3Dの動画コンテンツが登場したのである。
その後も3D動画コンテンツが続々登場
8月2日からは、明治大学が創立140周年を記念したロゴやメッセージが回転する広告動画を放映した。明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の1年生が制作したそうだが、教授が発した「新宿の3D巨大ネコが面白い」という何気ない一言に反応し、わずか4日間で制作したという。将来が楽しみな人材だ。
9月15日には、UFOの映像が放映された。これは、(株)GADGET(ガジェット)が3DCG錯視効果テストとして行ったもので、UFOの飛び出し具合が抜群で素晴らしい。好評でその後もフィラーとして放映されている。
9月24日からは、(株)バンダイナムコエンターテインメントが、「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」の全世界3億5000万ダウンロードを記念して、「フリーザ(フルパワー)」を登場させた。「いいだろう 木っ端みじんにしてやる あの地球人のようにな ふふふふふふふ(笑い)」と語る姿は、リアルで迫力があり怖いくらいだった。キャラクターの声が聞こえることも効果的で臨場感を出していた。SNSでも「フリーザ様の3Dの立体広告がクロス新宿ビジョンに降臨!」と話題にされ、公式Twitterの中には2,716件のリツイート、239件の引用ツイート、1.2万件のいいねが集まったものもでた。
10月25日からは、(株)スクエアエニックスがスマホゲーム「星のドラゴンクエスト」の6周年を記念した動画広告を放映。名物キャラクターのスライムが登場し、猫と同様、3D風に生き生きと動いて通行人の様子を窺うと、その数は次第に増えていき、ビジョンの空間いっぱいになった後、巨大なキングスライムに合体した。スライムが画面からはみ出して見える迫力は、ドラクエ好きにはたまらないものだったに違いない。後日、銀色に輝くメタルスライムバージョンも放映された。
10月28日からは、東宝(株)の劇場版「きのう何食べた?」のプロモーションでも使われた。主演の西島秀俊さん、内野聖陽さんの二人が、下を覗き込みながら「新宿のみなさーん」と歩行者たちに呼び掛け、手を振ったり、手を前に大きく出したりするなど、立体映像に合わせた動作で息の合った掛け合いをみせた。映像はグリーンバックの前で、目線や手の動きなど立体的に見える角度を探りながら何度もテイクを重ねて、フェイク3Dという手法で撮影が行われたという。11月19日から3日間追加放映もされた。SNSでは、「かなり 外に乗り出してしゃべってたので ビックリしました!!」「あのふたりが飛び出す絵本みたいになるなんて、ステキ」といったつぶやきが見られた。
11月に入るとスマホ向けゲームアプリNetEase Gamesの「Identity V 第五人格」の動画広告が2種類放映された。ひとつは、ゲーム内の探偵がふと何かを思い出し、怒ったように目の前のガラスを殴り、画面に見立てたガラスに入ったひび割れが次第に広がり、最後には完全に砕け散るというもの。もう一つは、サバイバー「少女」を、ハンター「悪夢」が襲うというもの。怪物の巨大な手が画面からはみ出す迫力は凄かった。SNS上で大きな話題となり、公式アカウント、ユーザーたちがアップした動画は、累計再生数が50万回を超えたという。
11月2日からは3D猫とアイロボット・コーポレーションの「ルンバ」とのコラボ動画広告「#ネコにルンバを」の放映が開始された。新宿の猫も換毛期という設定。身体をブルブル振ると毛が抜け、飛び散る。それをルンバ(i3)が清掃し始める。猫は興味津々でルンバにチョンチョンと触わったりする。ルンバの清掃が終わり、最後に猫が「ニャー」と一鳴き、ルンバも清掃終了音を鳴らすというストーリーだ。ルンバにペットの抜け毛の掃除を任せて、ペットとの時間をもっと充実させてほしいという思いから、共演が実現したという。親和性が抜群に高く目の付け所がいい。ルンバが画面から飛び出して落ちるかと思うシーンがあったが、落下を回避していた。これは段差センサーにより端を検知して落ちないということを示すものだった。商品の機能的価値と3Dの効果的演出を見事にマッチングさせた表現と言えるだろう。
3D猫制作の裏話が番組で放送される
日本テレビ系のテレビ番組「1億3000万人のSHOWチャンネル」では10月30日に3D猫制作の裏話が放送された。番組では3D猫を制作した(株)オムニバス・ジャパンのCGスーパーバイザー青山寛和氏が出演。興味深い話が聞けた。きっかけは、韓国の江南のWaveやマレーシアのクアラルンプールの黄金の雄牛など、肉眼で3D効果が楽しめるデジタルアートがバズっていることだったという。これらに共通しているのはデジタルサイネージの形状がL字型で湾曲している点。画面の中にビル壁面に似せた壁をCGで作り、本物の壁だと思っていたら手前にかぶってくるから立体と錯覚すると原理を説明。リアルな猫を表現するためにまず作ったのが猫の「骨と筋肉」で、骨格から作ることでより正確に動きの仕組みが分かるという。実際本物の猫との比較動画を見ても区別がつかなかった。最後にビルのCGと合わせ、動きと質感を整えて完成という流れだった。
また、おなじみの台詞「なんて日だ!」を連呼する小峠英二さんの3D映像を制作することも紹介された。これは、番組スタッフの「あの巨大猫を小峠英二に変身させたい」という提案から企画が生まれたという。番組の宣伝として作ったので、これは放送前(10月某日)にクロス新宿ビジョンで放映されている。その撮影風景などの制作過程や、通行人の反応も明かされた。小峠さんの撮影では、ビルの上に立っているような見上げる角度のセットを作り、レンズに歪みが少なく計算されたサイズで正確に撮影できる特別なカメラを使ったという。小峠さんが動くことで立体感を出したいのだが、動きすぎるとCG映像から切れてしまうことからテイクを繰り返し、ミリ単位で妥協しないCGのプロ魂が紹介された。動画が放映された現場インタビューでは、「面白かったので動画撮りました」「出てくるかと思っちゃうくらいけっこうリアル」「ビックリしましたね。東京スゲェぞ」といった声が聞かれた。 小峠さんは、11月にもNetEaseGamesの終末オープンワールドサバイバルゲーム「ライフアフター」シーズン4「変異暴走、再び」の広告で登場している。群がるゾンビを押しのけ「なんて日だぁぁぁ! お前達、何見てんだよ! レイヴン市が危ないぞ!(中略)さっそくライフアフターをダウンロードして 俺とともにゾンビ世界を生き残れ!」と、新宿の通行人に向けて、ゾンビの襲来にさらされるレイヴン市の危機をアピール、共闘を訴えかけた。
渋谷では3D犬動画、裸眼3D映像が、新時代のOOHの潮流
新宿は3D猫動画だったが、渋谷は必然的に3D犬動画となる。渋谷ハチ公前の大型ビジョン「シブハチヒットビジョン」では、(株)TKO(ティケィオー)スタッフが中心となって、(株)AOI Pro.のMultiplex Projectチームで緻密な検証を重ねて実現した、ハチ公をモチーフにした作品などが放映されている。チームは他に、アサヒビール(株)のテキーラブランド「クエルボ」限定デザイン商品の3D動画広告も制作。これは、渋谷スクランブル交差点にある5つのデジタルサイネージでシンクロ放映がされている。ラテンアメリカ諸国に古くから伝わる文化、「死者の日」を伝えるため、その象徴的なアイコンである、「カラベラ(骸骨)」と「マリーゴールド」をデザイン化した限定ボトルの商品で、映像ではその骸骨が飛び出す感じになっている。制作した同社によると、「裸眼3D映像が、新時代のOOHの潮流」と捉えているがその通りになりそうだ。
また、渋谷文化村通りに11月12日にオープンした渋谷ハビウルの屋上に設置されたL字型の「Habiulu ShibuyaVision」では、3D犬「ハビウルくん」(立体アニメ)がスケートボードの練習に励む映像を放映。「渋谷には多くのLEDビジョンがあり、ただ設置しただけでは埋もれてしまう」という点を改善すべく、「LEDビジョンとビルの価値を向上させるキャラクター」として生まれたという。
「シブハチヒットビジョン」では、本誌9月号で紹介した「Dクリニック」の3D動画広告もあった。その時に、肉眼3Dに特化した大型屋外ビジョンを都内で新設予定としていたが、その後、表参道に200㎡超のL字型の大型屋外ビジョン「表参道ヒットビジョン」を新設した。
10月11日からはその第一弾としてビー・エム・ダブリュー(株)が次世代電気自動車BMW iXの3D動画広告を1社独占で放映。充電ケーブルに繋がれた車が空中に浮かびながら現れ、次第にエネルギーをチャージ。フル充電されたところで、ヘッドライトが点灯して一気に加速。ショーケースのガラスを突き破って空中へ飛び出していくというインパクトある表現で放映している。このように、新宿東口の3D 猫が登場して以来、様々な肉眼で見ることの出来る3D 動画コンテンツが放映されている。3D クリエイティブの力は、デジタルサイネージをデジタルランドマークとさせ、媒体価値を上げることにもなった。これらは新時代のDOOH の潮流、コロナ禍におけるDOOH のトレンドトピックスとして注目すべきものだ。
※このコラムは、「サイン&ディスプレイ2021年12月号」からの転載です。
<無料資料配布中>圧倒的インパクト!話題を拡散する3D屋外広告
3D屋外広告は広告接触者に驚きを与え、思わず写真を撮り、SNSに投稿する行動を促すという、他のメディアでは難しい広告接触体験を提供し、プロモーションを広げることができるのが特長です。3D広告が立体的に見えるのは、錯視を利用しているからです。錯視とは、目の錯覚のことで、トリックアートなども錯視を利用して作られています。3D広告を放映するビジョンは、湾曲したLEDディスプレイを活用することで、錯覚が起きやすいように設計しています。平面LEDディスプレイであっても、奥行きを演出することで、画面の端を錯覚させる技法も用いられています。