Our Topicsデジタルサイネージアワード2021受賞作品が発表される

2021年7月3日、「デジタルサイネージアワード2021」の発表が行われた。
https://digital-signage.jp/openevent/award/2021winner/

(一社)デジタルサイネージコンソーシアムが、公募したデジタルサイネージ作品の中から、優秀な作品を選出・表彰することでサイネージ市場のさらなる活性化を目指すものだ。
審査は、6月にWeb上で開催され、筆者も参加。グランプリと準グランプリ各1点、優秀賞8点、未来先取り部門賞2点が選出された。
コロナ禍の影響が続く中、屋外を主なフィールドとするサイネージマーケットの将来が気になるところだが、だからこそ知恵を絞り、人々の心に寄り添い、斬新でチャレンジングな取り組みはむしろ例年以上のクオリティだったと感じた。デジタルサイネージの最新トレンドを知る意味でも参考になるだろう。受賞作品と審査員の評価を順番に紹介する。

グランプリは、まさにキングオブ駅サイネージ!

■ グランプリ
「新宿ウォール456」、「J・ADビジョン新宿駅東西通路」

最高評価となった「新宿ウォール456」は、本誌6月号でも取り上げた国内最大規模となる超大型LEDサイネージだ。このサイネージは高さ1.7m、左右の幅は45.6mもあり、昨年「デジタルサイネージアワード2020」グランプリを受賞したギネス世界記録認定の「UmedaMetro Vision」よりも長い。加えて、70インチの縦型液晶サイネージ25面の「J・ADビジョン新宿駅東西通路」と同時展開で、サイネージによる駅ジャック広告展開が可能だ。ここ数年、大型化が進む駅のデジタルサイネージの中でも、これまでを上回る、まさに「キングオブ駅サイネージ」と呼んでもいい媒体だ。
審査員からは『空間におけるデジタルサイネージの圧倒的な規模感、表現力の豊かさ、新宿という東京の中心で、最先端で最高のデジタルサイネージが立ち上がった』『単純に45.6mというサイズはインパクト大。映像だけでなく、照明と音響も使って空間全体を演出しているのも良い。環境映像コンテンツ制作に、世界的に評価の高いMoment Factoryを起用しているのも高評価』などと絶賛された。
受賞者は『コンセプト段階から3年余りをかけて、広告会社と鉄道会社が共同でサイネージを活用し、空間を一体開発した事例。非常に多くの協力会社が役割分担し、検証と課題解決を繰り返し実現できた。東京のランドマークのひとつになればうれしい』とコメントした。
同媒体は、5月10日から広告運用が開始されたが、広告主からの引き合いも多く評判も良い。また、6月7日からは、講談社が人気漫画「進撃の巨人」コミックス最終34巻が発売されることを記念して、歴代の巨人たちが集結。12年の物語が終わる悲しさ、12年間応援してきたファンへ感謝の気持ちを伝えたスペシャルムービー「感激の巨人」が放映された。
現場では多くのファンがスマホで撮影する姿が見られ、ネットニュースに配信されたり、テレビでも取材されたりするなど話題になった。

コロナ禍においてOOH広告の果たす役割を示した好事例

■ 準グランプリ
「すしで、笑おう 渋谷ジャック企画」

東京屋外広告コンクールで賞を取るなど以前にも本誌で紹介したものだ。渋谷スクランブル交差点を一周囲むようにOOHメディアをジャックし、巨大なスシローの店舗を演出。日本の伝統食であるすしと、伝統芸能である歌舞伎のコラボレーションでメッセージを発信した。
渋谷駅地下通路のサイネージでは、長さ25mの形状を活かして巨大回転すしを再現した。広告主はコロナ禍で多くの人がかつてない影響を受けているからこそ“うまいすし”を届けて笑顔になってもらおうと考えた。メッセージは「すしで、笑おう」。
審査員は『コロナ禍の状況と自社に出来ることを上手く踏まえたメッセージ、サイネージクリエイティブの優秀さ、SNSでそのサイネージ動画が110万回以上再生され、共感を呼んだ実績など最高』『コロナ禍においてOOH広告の果たす役割「インパクト」と「広告は人を元気づけられる」ということを示した好事例』と評価した。

DOOH ×データ/テクノロジーの新たな可能性を提示

■ 優秀賞 「See it all」
( 株)LIVE BOARDのサイネージメディアは、NTTドコモの携帯電話ネットワークの運用データなどの活用により、日本初のインプレッション(延べ広告視認者数)販売型広告を可能とした。また、Hivestack 社による、ターゲット対象が最も集中している付近のデジタルサイネージへプログラマティックに広告配信するデジタルテクノロジーも活用可能なDOOHメディアだ。
Intel Corporationは「See it all」キャンペーンにて、これらを活用したプロモーションを実施。「広告を見たグループ」と「広告を見ていないグループ」に分類して、これらグループの数値をビジネス・インテント・データと比較したところ、8.8%のリフト向上が認められた。
このことから、インターネット広告では実現できている3つの機能(Addressable:最適な広告枠を必要なときに、Accountable:広告の視認者数を把握、Attributable:広告の効果を測定可能に)をDOOH にも実装することが有効であることが実証されたとしている。
審査員は『DOOH ×データ/テクノロジーの新たな可能性を提示した好事例。海外から日本のOOH媒体を直接買い付けられる仕組みも高評価』『屋外広告では難しいとされていたインプレッション販売型サイネージへの取り組みは、今後のデジタルサイネージの可能性も含め評価したい。広告ターゲットが街なかのサイネージに近づくと、広告が切り替わるという展開もおもしろい』と評価した。

移動体サイネージの新たな可能性を示す未来指向の良い事例

■ 優秀賞 「e-モーションウインドウ」

JR秋田~青森間の五能線を走る臨時快速列車「リゾートしらかみ青池編成」で、車両の窓ガラスの間に有機ELディスプレイ(約55インチ、幅約121cm、高さ約70cm)を挟んだサイネージ。専用のアプリと機器を介して映像を放映し、外の景色と合わせて映像コンテンツを楽しめるものである。
同サイネージは、9月まで耐振動性、直射日光照射時の視認性など各種試験が実施され、乗客の意見を取り入れながら、今後の活用方法について検討される予定だ。
審査員は『様々な課題はありつつも、新規素材を積極的に取り入れて新たな体験価値の創造を目指す姿勢は評価に値する。振動や温湿度など、ハードな環境での運用で課題も見えてくるし、OLEDの更なる進化にも寄与するだろう』『移動体サイネージの新たな可能性を示す未来指向の良い事例』と評価した。

街をギャラリーと解釈した取り組みは新たなクリエイターの登竜門として定着を期待

■ 優秀賞 「Next World ExhiVision」

コロナ禍において、「明るい世の中に変えられるのはアートの力なのではないだろうか?」 という課題意識のもと、デジタルサイネージをアートのキャンバスとして日本中に展開したいという想いから企画。第23回文化庁メディア芸術祭協力プロジェクトとして実現し、24組のアーティストが参画した。8都市71か所のデジタルサイネージにて、推定延べ視認者数 7,402,672名(15秒換算)へ、アート体験を提供した。
審査員は『アートを通して全国のサイネージが結ばれていくという発想・仕掛けは非常に面白く、業界発展の一つの糸口にもなると感じる』『設置場所拡大とDB整備の進展で、街をギャラリーと解釈した取り組みは新たなクリエイターの登竜門として定着を期待する』と評価した。

オンリーワンの顧客体験価値を創り上げたアプローチは賞賛に値する

■ 優秀賞
「オンラインサービスのデータとデジタルサイネージを活用したブランドMIX型 OMO店舗 「ドットエスティストア」

「ドットエスティストア」では、スタッフによる写真・動画投稿、 購買データ、ブランドリコメンド、パーソナルスタイリング(顧客属性に合わせた提案)などのオンラインデータと、サイネージのクラウド型コンテンツ配信システムを連携し、リアル店舗での新たな顧客接点、購買体験の創出を実現。店内のサイネージにはテーマ別人気アイテム、スタッフのおすすめやそれらの商品の詳細の他、自身の購入履歴、後ろ姿などが表示される。
審査員は『ミラーサイネージやタッチUI、スマホ連携、録画機能など、既存の技術を積極的に組み合わせることにより、オンリーワンの顧客体験価値を創り上げたアプローチは賞賛に値する』『単なるデータによる自動化や無人化ではなく、店舗スタッフが軸となった日本ならではのきめ細やかなOMOである点を評価』
と評価した。

ライブ映像に「生音」を聴かせるという発想

■ 優秀賞
「ダイナミックな滑走路ライブ中継映像を福岡国際空港内旅客ターミナルの大型LEDビジョンで放映」

福岡国際空港 国内線旅客ターミナルのリニューアルに伴い、ビアホール「SORAGAMIAIR(ソラガ・ミエール)」に大型LEDビジョンを導入。すぐ側にある滑走路を4Kカメラで撮影し、その映像を放映した。福岡空港の展望デッキと大型LEDビジョンにて、開放的で爽快感のある空間を演出。ビアホール入口には118型のビジョンを設置し、メニュー表示など販売促進に活用している。
審査員は『空港=飛行機の離発着のダイナミック感をさらに強調したデジタルサイネージ。デジタルライブ映像に「生音」のエンジン音を聴かせるという発想が、リアルでありデジタルの空間演出の一助になっていた』『空港ならではのキラーコンテンツである飛行機の離発着のライブは注目度高く、4Kカメラと大型・ファインピッチのLEDの組み合わせで臨場感も発揮できる。今後5Gで他の空港・観光スポットの4Kライブ等、用途も広がりそう』と評価した。

新しいテクノロジーを取り入れたチャレンジングなメディア

■ 優秀賞
「THE TOKYO MOBILITY GALLERY Canvas」

都内を走行するタクシー車両の空車時間を活用して、サイドガラスに広告を映し出す国内初の車窓モビリティサイネージサービス。サイドガラスには、ガラス製透明スクリーンが搭載されており、投影していない時は透明な窓ガラスとなる。
審査員は『タクシーサイネージのマーケットは拡大しているが、乗客ではなく車外に向けたプロジェクションは都市圏では効果的。今後のデバイスやスクリーン素材の進化に期待できる』『これまで広告メディアとしては、活用しきれなかった新しいテクノロジーを取り入れたチャレンジングなメディア』と評価した。

「都市と移動がつながる」を体現。街に溶け込むサイネージ

■ 優秀賞 「モビリティアートトラック」

LED光源がついたブレードが高速回転し、光の残像で映像を空間に映し出すデバイス3Dホログラムサイネージ「3DPhantom」。トラックの荷台に透明コンテナを設置し、その中に、3D Phantomを36台連携させ、V字型に立体配置した。
3D Phantomは、2020年に渋谷芸術祭に出品され、芸術祭のテーマのひとつ「都市と移動がつながる」を体現。トラック内に映し出された3DCGで構成されたデジタル映像の先には、渋谷の街並みが透けて見えた。
審査員は『3DPhantomを活用して街の景色と情報がMR映像のように見えるところが面白い。街に溶け込むサイネージ』『デバイスの特徴である透過性を利用して背景をクリエイティブの一部としてオーバーレイする手法は新しい発想。このジャンルでの活用シーンはまだまだあるはず』と評価した。

コロナ禍における新しいサイネージの見せ方を提案

■ 優秀賞 「タッチレスラクティブ」

プロジェクターやディスプレイに投影されたメニューに、手をかざすだけで簡単に操作ができるインタラクティブな「非接触型」タッチシステム。画面を触ることなく顧客とコミュニケーションがとれるシステムとなっており、コロナ禍でも安心安全に情報を取得できる。これまでに、新聞ほか、57ものメディアで紹介された。
審査員は『コロナ禍における新しいサイネージの見せ方を提案しており、タイムリー』『コロナ禍でフォーカスされた非接触(空中操作など)システムが、今後の導入が進み、スタンダードなIoTの一つになるだろう』と評価した。

継続性に賞賛の声。
地域活性化にも大きく貢献

■ 未来先取り部門賞
「世界遺産中城城跡プロジェクションマッピング」

世界遺産中城城跡の三の郭城壁に、プロジェクションマッピングの映像を投影した作品。城主であった「護佐丸」を主人公とした村内の伝統芸能とのコラボが特徴的である。
同イベントを開催する前は年間9万人にも満たなかった来場者数が、イベントを開催した後からは年間11万人から13万人を超えるまでになっている。2013年から毎年実施されている人気のイベントだ。
審査員は『プロジェクションマッピングとリアルなパフォーマンスとの連携は迫力があり集客力は高い。特にブームにとらわれず10年近く前から定期開催していることからも高い評価を得ていることが窺われる』『多くのマッピングイベントが数回で終わることが多い中で10回近くイベントを継続してきたことは賞賛に値する。地域の活性化にも大きく貢献した』と評価した。

デジタルサイネージが商業施設のランドマークに

■ 未来先取り部門賞
「THE OUTLETS HIROSHIMA 神楽時計」

エレベーター施設の壁面2面を利用して設置された縦12m、正面横3.5m、側面横1.5mの国内最大級の縦型LEDサイネージ。最新の空間演出技術を駆使したデジタルサイネージが商業施設の大型エンタテインメント空間を盛り上げる。4種のコンテンツのうち、1時間ごとに登場する「神楽時計」は、伝統芸能「ひろしま神楽」をモチーフに、疾走する竜と神楽衣装の色を高精細な色彩で表現した。
審査員は『エレベーターシャフトをラッピングしたサイネージは意外性もありシンボリック。クリエイティブの質も高く、フレームレスなLEDならではの事例。ロケーションを問わず、LEDディスプレイの用途は広がっていくだろう』『実際に見て圧倒的な存在感を感じた。サイネージが商業施設のランドマークとなっていた点や地元の魅力を訴求する内容だったり、実際のエレベーターと連動したり、インタラクティブな点だったりなど、きめ細く考えられたクリエイティブの質も高い』とコメントした。

以上、受賞作品を紹介した。評価されたポイントをまとめてみると、OMOやコロナ禍の状況に寄り添っていたなどの「時代性」、今までに無かったことにチャレンジするなどの「斬新性」、高性能、高精細、高機能などの「クオリティ」、創造性・共感性・インパクトなどの「クリエイティブ力(表現力)」、SNSで情報が拡散した、メディアで取り上げられたなどの「話題性」、そして効果の可視化や効果が見られたといった「実効性」などが挙げられる。

※このコラムは、「サイン&ディスプレイ2021年8月号」からの転載です。