Our Topicsカンヌ国際広告祭から見る世界のOOHの方向性

優れたクリエイティブで社会的メッセージ発信

今年は6月21日から27日まで開かれたカンヌ国際広告祭。プロモ部門やメディア部門でグランプリを受賞したり、他部門でも入賞が多く見られたりと全体の出品数が減少した中で日本勢は大躍進に終わった。
また、フィルム部門のグランプリ受賞作品「CAROUSEL」が従来のフィルム部門作品と一線を画したインタラクティブ性の高い作品だったことも話題になった。それぞれの部門受賞作からカンヌ広告祭の新しい潮流が見られた今回、アウトドア部門でも気になった作品を少し掘り下げてみたいと思う。
グランプリを受賞したのはジンバブエ新聞が行った反政府キャンペーン。「TRILLION DOLLAR CAPMAI 」という名のこの広告は、実際の紙幣を街中のビルボードやポスター、ダイレクトメールやチラシなどに使用したもの。そもそもの、この新聞社が独裁政治と称されているジンバブエのムガベ政権を批判したことから始まった。その報道により、反政府団体とみなされた同紙は国内55%もの税をかけられたのである。極度に高い税率のせいで現地では一般市民が同紙を購入することができなくなってしまった。
そんな独裁政権の中、現在ジンバブエは同大統領の経済政策の失敗によりハイパーインフレ状態が続いている。経済混乱の中で紙幣の価値は世界的にも最低基準まで下がり続け、紙屑同然となっているのだ。その紙幣を利用し、ジンバブエ新聞社はあえてイギリス国内でプロモーション活動を行い、「国を壊滅状態にした政権と戦え」「紙に印刷するよりもこの紙幣に印刷したほうが安い」などのコピーと共に反ムガベ政権の意思をアピールしたのである。イギリス国内では、このキャンペーンが話題となり販売部数が増加、結果ヨーロッパやアフリカの国々、そして世界各国でもこの事実が広く知られることとなった。
もうひとつはゴールドを受賞したグルジア紛争の被災者救済基金広告。2008年頃からロシアとグルジアの間で勃発している南オセチア紛争。この広告は、その南オセチア紛争を始めとする軍事衝突の中で被害を受けている人々を助けるための基金を呼び掛けている。バス停広告の中に見えているのは一見するとジーンズやセーター、靴などの身の回り品。しかしそこに書かれているメッセージは「このジーンズは被爆した家で見つかったもの」「この靴は亡命経路の溝で見つかったもの」などと書かれている。掲示されている物品は全て難民にまつわるものなのである。何気ない日用品の裏には、戦争による悲惨な現状が隠されているのだ。メッセージの最後には「苦しみはまだ終わっていない。始まったばかりだ。」と書かれ、基金の受付先が記されている。
これら二つの受賞作をはじめ、他部門受賞作からも見られるように、広告は徐々にその役割を単純なマーケティングツールから、社会的メッセージを伝える、より純粋で高い意識の中のコミュニケーションツールへと変化しているように思える。それは世界的な経済状況も影響しているだろうし、既存メディアの力が変化したことにも起因するだろう。今後はOOHもその公共性を活かして、効果的なメッセージツールとなっていくはずだ。

※このコラムは「宣伝会議」2009年9月号からの転載です。