Our Topics感動を呼んだ駅のサイネージ展開

駅長定年退職の日に、感動のサプライズ

2017年3月27日、東京メトロの電車内にあるデジタルサイネージを見ると「2017年、春、定年退職を迎える駅員に、同僚たちからのサプライズ」とテロップの入った動画が流れ始めた。映像には日比谷線秋葉原駅で働く一人の駅員さんの姿が見える。この方が定年退職を迎える人だとわかる。驚いたのはその後の展開だ。
人のいない駅構内の複数のサイネージに、制服姿の駅員さんたちが一人ひとり別々に映っているシーンが出てきたのである。「おつかれ様でした ご指導ありがとうございました」と手書き文字のメッセージが大写しになったが、各人がそれぞれ心を込めた労いやお礼の言葉を伝えていたようだ。駅のサイネージの同僚たちの映像を見て、目頭を押さえ涙するシーンが感動的だ。その後隠れていた駅員さんたちが、次から次に拍手をしながら姿を現し、花束の贈呈がされ、笑顔のシーンで映像は終了した。最後に表示された「働き続けたあなたに。お疲れ様でした。」という言葉も心にしみた。
さらに、画面には「働くって、いいもんだ」「THE LAST TRAIN」「春に退職する駅員へ、終電後の駅で仕掛けたサプライズ」とあり、この動画の意図がわかるものとなっていた。注目したのは、そこに東京メトロのロゴとサントリーの缶コーヒーBOSSのロゴが並んで出ていたことだ。

東京で働く人を支える、働く人の相棒

東京メトロの担当者によると、この企画にはサントリーの働きかけと協力があったそうだ。東京メトロはビジネスシーンでの利用者が多く、東京で働く人を支えている一面がある。一方サントリーの「BOSS」は、”働く人の相棒“というブランドコンセプトがあり共通点があった。この部分に着目した優れた企画だが、半年前から準備を行い、綿密な打ち合わせのもと実現したものだそうだ。なによりコンテンツの出演者が俳優ではなく本物の東京メトロの社員である点はリアリティがあり、共感を呼びやすかったに違いない。

OOHとWebメディアを活用した成功事例

電車内のサイネージ媒体では前例の無いわずか30秒だが、感動を呼ぶドキュメンタリー番組の提供スポンサー的なものに近しい。ネット上でも「心温まる内容で感動した。涙があふれた」「泣ける、長い間ありがとう、定年退職する駅員さんに仕掛けたサプライズ動画が感動不可避」などのつぶやきが見られた。この動画は東京メトロの駅のサイネージでも放映されたほか、東京メトロの公式チャンネルに、ロングバージョンの本編Webムービーが公開された。
本編ではこの駅員さんが人望の厚い区長(駅長)さんであることや、真摯な仕事ぶりなどもわかった。2週間余りりで視聴回数は38万回を超え、「いいね」の数は2000以上。多くのWebニュースに掲載されたほか、日本テレビの「スッキリ!!」などでも取り上げられた。駅長さんの有終の美となる姿を通じて、働く人が前向きの気持ちになってもらうことも意図したそうだが、PR効果もあり充分伝わったに違いない。
この感動を呼んだサプライズなしかけは、OOHメディアとWebメディアの双方を使った成功事例と言えるだろう。ブランディングのうまい広告主の斬新な展開方法、参考にしてみてはいかがだろうか。

※このコラムは「宣伝会議」2017年6月号からの転載です。